倖せのかたち
いっそ、引いたり呆れたりするようなことを言ってくれたほうがいいのだ。

それなら、朔太郎への恋心も、少しは冷めるだろうから。

かなり照れたように、

「世代的に、多分知らないと思うけど…横山リエ」

「え?」

「昔の女優さん。知らないだろうし、なんか恥ずかしいから…もういいよ…」

「知ってる!」

私がそう言うと、朔太郎は、またしても驚いている。

「映画論の授業で“旅の重さ”を観たの。私、前列に座ってて、講師と目が合った時に『あら?あなた、横山リエに似てるわね!ホラ、旅芸人の政子役の人』って言われて…周りも『あ、ホントだ!』なんて言い出して、凄く恥ずかしかったから…」

『そうなんだよ!その鋭い目とか、細眉とか、ぷっくりした唇とか、低い声とか…ホントそっくりだよな!』
< 34 / 66 >

この作品をシェア

pagetop