カレンダーガール
「もしもし、こちら東邦大学病院の救命外来です。お子さんが怪我をされて搬送されました。直ぐに来ていただけますか?」

一瞬の沈黙。その後、
「息子は、勇気は大丈夫なんですか?」
動揺した声に変わった。

「いらしてから説明しますので、まずはおいでください」
「様子を教えてください。どんな怪我ですか?意識はあるんですか?」
「・・・」
「教えてください」
涙声で、訴える女性。

「交通事故です。意識は・・・残念ながら・・・」
「残念ながらって、死んだんですか?」

いやいや、そうは言ってない。
「落ち着いてください。まだ亡くなってはいません」
あっ、しまった。
そう思った時には遅かった。

「まだ?まだってことは、危ないってことですね?」
「いえ・・・」
「どうなんですかっ。はっきりおっしゃってください」

マズイ、女性は興奮状態になっている。

「息はしているんですか?心臓は?」
「・・・」
「お願いです。教えてください」
電話の向こう側の声が、嗚咽に変わっていく。

「心臓も、呼吸も、停止した状態です」

ドンッ
大きな物音が電話口から聞こえた。

「もしもし・・もしもし・・・」

「おい、どうした?しっかりしろ」
聞こえてきたのは、動揺した男性の声。

「もしもし  もしもし」
何度も何度も、私は受話器に呼びかける。

「もしもし、一体何があったんですか?」
しばらくして、やっと電話口に出た男性がたずねてきた。

「えっと・・・」
この状況をどう説明したものかと思っていると、
「変わって」
後ろから救命部長が受話器を取った。

私と女性の電話を聞いていた救命部長が、男性に経緯を説明する。
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