カレンダーガール
ブブブ ブブブ
携帯が震える。

「はい。鈴木です」
「桜子?」
電話の向こうから聞き慣れた声。

「はい、桜子です」
私はちょっと辟易しながら答えた。

大好きな人からの電話は、本当なら嬉しくないはずがない。
でも・・・
一日に何度も何度も、きちんと仕事をしているんだろうかと心配になるくらいかけてくる。

「夕食まだだろ?夜食、何か持って行こうか?」
はあ?
「病院のコンビニで買いますから大丈夫です」
「本当に?」
「ええ。それより、先生も当直ですか?」

はー。
電話の向こうから、ため息が聞こえた。

ああ、
「ごめん。あ、明日鷹も、当直なの?」
慌てて言い直した。

半月の休養が明けて勤務に戻るとき、
勤務時間を短くしろだの夜勤はするなだのと、子供みたいに因縁をつける明日鷹先生を黙らせる交換条件が、『先生と呼ばないで。名前で呼んで』だった。
だから、仕事以外では敬語もやめて、『明日鷹』と呼ぶようにしている。

「当直じゃないけど、仕事がたまっているから。もう少し残業して帰るよ」
電話の向こうから聞こえる声が、なんだか満足そう。

まあね。もうすぐ父と母になるんだからいつまでも先生って呼ぶものおかしいと私も思っていたから、ちょうどいいチャンスだった。
でも、やっぱり恥ずかしい。
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