カレンダーガール
「お疲れ様。これで終わりだね」
最後の外来患者さんを診終わった井上先生が声をかける。

「はい。後は、薬希望の方が数人残ってますので出しておきます」

うちのような総合病院で外来を持つのは中堅以上の医師。
研修医は指導医について外来に入り、検査のオーダーや処方箋を出したりの補助につく。

「じゃあお願いします」
私に後を任せ、井上先生は外来を後にした。


20分後。
薬希望の患者さんにいつも通りの処方を出し、私も診察室を後にする。
すでにほとんどの外来が終わっている時間だけあって、ロビーも人影が少ない。

あっ、啓介。
エスカレータで降りていく方向に啓介の姿があった。

「啓介」
通り過ぎる背中に声をかける。

あれ、聞こえないのかな?

「ねえ、啓介」
再び呼ぶと、やっとこちらを振り向いた。

「ど、どうしたの?」
駆け寄りながら顔を見た瞬間、そう言わずにはいられなかった。

虚ろな目と蒼白な顔。
これは私の知っている啓介じゃない。

「なんだ、桜子か」
その上声まで弱々しい。

「どうしたのよ。大丈夫?」
やはり具合が悪そう。

「大丈夫だよ。少し疲れてるだけだ。最近当直が続いているから」
いつも笑顔で明るい啓介が、今は別人のように見える。

「具合悪いならちゃんと診てもらわないと」
「大丈夫だから。俺、行くわ」
面倒くさそうに言うと、立ち去ってしまった。

あんな啓介、はじめて見た。
インフルエンザで寝込んだときでさえ、あそこまでゲッソリはしていなかった。
一体どうしたんだろう。
この時の私はすごく嫌な予感がしていた。
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