カレンダーガール
「桜子先生」
啓介の姿が消えるのと入れ違いに声をかけてきたのは、小児科の桜井先生。

「桜井先生。お疲れ様です」
「お疲れ様。出来れば、下の名前で呼んでくれる?桜子先生に、桜井先生って呼ばれると紛らわしいわ」
はあ、なるほど。
「では、剛先生」
「そう。それでいい。ところで、さっきの研修医は整形の飯田啓介だよね。親しいの?」
珍しくまじめな表情。

「大学の同期なんです。紗花と3人で出かけたりする仲で」
「そう」

ん?なんだか困ったなって顔をしている。
「何かあるんですか?」

「うん。彼、あまりいい噂聞かないよ」
とっても言いにくそうな顔。

「どういうことですか?」
啓介はまじめで、人が良くて、悪い噂を立てられるような人間ではないはずだけれど。

「俺もあんまり人のこと言いたくないけどさ」
そう言いながら、剛先生は話し始めた。

剛先生の話では、数日前に整形で患者取り違えの事故があった。
幸い、オペ室入室直前に気づき大事には至らなかったが、院内で問題になっているらしい。
その原因が、啓介のカルテ記載の間違いと確認ミス。
人間だから間違いはある。あってはいけないことだけれど、ヒューマンエラーは存在する。それでも、啓介らしくない。
啓介は誰よりも慎重で、まじめで、確認を怠らない人なのに。

「桜子先生」
色々と考えを巡らせていると、剛先生に呼ばれた。

「はい」
「君のことだから、すぐにでも彼に連絡しそうだけど、今は止めとけ。院内調査もこれからだし、騒げば彼を追い詰めることになりかねない」

でも・・・

事態がはっきりするまでは何もするんじゃないと剛先生に念を押され、私はうなずいた。
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