手を伸ばせば、瑠璃色の月
ぽかんと口を開けて固まる私をよそに、全てお見通しだと言いたげな彼は腕を組んでみせる。


「さっき顔歪めてたのバッチリ見たんだからね。頭痛いんでしょ?ウチをあんまり舐めない方がいいよ」

「え、」


…さすがは、南山総合病院の次期院長となる男。

私の演技も全て見抜いたその洞察力の鋭さに、最早言葉が出てこない。


「何ですって?もしかして貴方、寝不足なの?あんな変な夢を見たからよ」


朔の言葉を聞いた美陽が、私の机に手をついて溜め息を吐いた。

先程までは“良い夢”と形容していたくせに、がらりと態度を変えてしまった彼女がどこか面白く見えてしまうのも否めない。


「ありがとう。でもね朔、このくらいなら少し寝れば治るから大丈」

「大丈夫じゃないから言ってるの」


彼の善意は有難いけれど、授業を欠席して人様の迷惑になってはいけない。

それに、この頭痛の原因は絶対に寝不足ではないと自覚しているから、今更保健室に行ったところで何かが変わるわけでもないし。


父のせいで自己肯定感が限りなく低くなってしまった私は、柔らかな微笑みと共に断ろうとしたのに、

案の定、真面目な顔で切り捨てられてしまった。


「大丈夫じゃない。保健室のベッドふかふかだから今すぐ寝ておいで。分かった?」


先生には説明しておくから、ほら行った行った!

そう紡ぐ朔は笑顔なのに目は笑っていなくて、心から私を心配している事が容易に伝わってくる。


「あ、…」


彼の表情を見ているうちに、気が付いた。

私は自分が居ないせいで他の人に負担を掛けてしまう事自体が迷惑になると思っていたけれど、今の彼にしてみれば、私が保健室に行かない事が迷惑にあたるんだ。


二人が心配してくれているのに、無理をしてまで大丈夫と言う必要はない。


その事が分かった私はようやく、

「ごめん。…行ってくるね」

若干の申し訳なさを感じながらも、頷く事が出来たんだ。


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