手を伸ばせば、瑠璃色の月
居待月

1




「はい、ここに名前書いて。書いたらこれ脇に挟んで」


泥棒の夢を見てから数日が経った、お昼休み。


先日も訪れたというのに、私はまたもや保健室(ここ)にお世話になる羽目になっていた。

しかも今回は、私を心配した朔と共に。


「ありがとう。…でも、何かもう平気みたいなんだよね」

「そうやって嘘ばっかり!今日は、熱があってもなくてもしっかり寝てもらうからね」


先生が急用で席を外しているから、保健室の中は私達二人きり。

平気、という言葉を裏付けるように腕を曲げてポーズを取ってみせたのに、明らかに嫌そうな顔であしらわれてしまった。



どうしてこんな成り行きになってしまったのか、それは十中八九私に責任がある。

放課後が近づくにつれ、家に帰りたくないという気持ちが心の中に渦巻き始めてしまった私は、何の気なしに両手で頭を抱えて俯いていたのだけれど。

私は無意識にその行為を何度か行っていたらしく、私がかなりの頭痛と闘っていると勘違いした朔によって、昼休みが終わる直前に保健室へと強制連行されたんだ。



「昨日、ちゃんと寝た?」


どうやって誤解を解こう、と試行錯誤しながらも正直に体温計を脇に挟んでいると、いきなり朔の整った顔が視界を埋めつくした。


「ん!?」
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