マーメイド・セレナーデ

知らない世界

家に帰ると広い玄関が視界に広がってだいぶ見慣れた光景が映る。

ただ今日は少し、いつもと違っていた。
翔太の靴のとなりにもう一つ。見たことがない靴が脱ぎ捨てられていた。

揃えられていないことに少しだけムッとして、きれいに揃え直してあたしは小さく声をだした。



「翔太……誰かいるの？」



頼りないあたしの声はしんと静まった廊下に思いのほか響いてちょっと戸惑った。

どうしようか、と少し悩んだ末、結局あたしはあたしは足を進めることにした。

高いヒールを脱ぐとよくあるように踵がすとん、と落ちる。
つま先で歩くことに慣れてしまった足がよろけてトンと壁に手をつく。



「おー、これがお前の彼女？」



リビングに続くドアが顔一つ分だけ開けられてあたしの思考が刹那、停止した。