マーメイド・セレナーデ
喧嘩別れした期間はとても長くて、寂しかったから。


あたしを抱いて、翔太が立ち上がって向かう先にもあたしは何の抵抗もしなかった。

シーツの海で手を伸ばしても、温もりのない冷たさとベッドの広さを改めて思い知るだけで、寂しさを助長させるだけで。
もう、あんな想いはしたくない。


暗いままの部屋に下ろされて翔太しか目に入らなくなったときふと気付く。


何も気にすることがない、ってそういうことだったのね。
即物的に言えばそのままベッドに行ったって問題はないってことね……。

そこまで考えて自分の思考に恥ずかしくなった。



「真知、今何考えてんだよ。俺以外のことを考えるな」



声に引き寄せられて翔太と目が合う。
強く、欲情した眼だった。
獲物を狩る肉食獣のような。



でもあたしもきっと同じような目をしているわ。
翔太が欲しくて欲しくて堪らない、って。



すき、ってどっちが多く言ったかってしょうもないことでむきになったり。
2人が近付いた夜だった。
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