マーメイド・セレナーデ

照れた横顔

口唇に付いた淡いピンクのルージュを舐め取った官能的な舌にいつまでもあたしの思考回路は奪われる。

塗り直したルージュでさえも舐め取られる。


おいしいルージュっていうのがあったらあたしは真っ先に買うに違いないわ。
甘い匂いだけじゃなくて、そそられるような。

さらに、落ちて行くあたしの思考を遮る。



「準備出来たか?」



言葉とともに、腰を屈めて覗き込まれる。
――真っ先に眼が行くのはその唇で。

あたしのとんでもない考えを知らないのに、口角を上げてにやりと笑ってる。

かぁ、っと体温が上がったのを自覚した。
考えを読まれてしまったと思う。目を逸らすだけでは耳の赤さは隠せないけれど。



「……何とか」

「タクシーを下で待たせてるから下りるぞ」


ふっ、と笑ったのが気配から伝わる。けど、翔太は何も言わない。何も言わずにキャリーバックを持って玄関へと向かった翔太のあとを追う。

パンプスに足を入れたときバランスを崩してよろめく。あ、と声を出したとき、玄関のドアにもたれ掛かっていた翔太から腕が伸びる。

斜めになっていたキャリーバックは翔太の手を離れて大きな音を立てて倒れてしまった。
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