マーメイド・セレナーデ

近付く緊張

カタン、と遠くで音がする。
鮮明な音ではなくて、何かに包まれて直接の音が聞こえなくて、くぐもった音。


深く沈んでいた意識が徐々に浮かんでくるように顔に届いた光に無意識に眉を寄せた。
寝ているのに、意識だけは何処か鮮明になってる。


そのとき擦れる音とともに強く日差しが顔に当たった。



「ん……」

「真知、起きろ。もう行くぞ」



覚醒していたあたしの意識はその聞きなれた低い声をすぐさま脳に届けて正確にその言葉の意味を理解した。


布団を跳ね飛ばして起きるとちょうど、ネクタイをきゅっと締める翔太がそこに居た。
後の窓から朝日が入っていて、逆光で表情は見えないけど、気配から軽く笑ってるのがわかる。
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