マーメイド・セレナーデ
「なに、笑ってるの?」

「寝癖ひでぇ」



寝起きのかすれた声は自分の声とは思えなくてみたけど、翔太の返事にさらに驚いた。



「え、うそ、なっ、」



手櫛で髪に手を入れると重力に逆らった髪が見付かった。
ハネた髪の毛を一生懸命押さえつけてもぴょこんと元に戻るのが見えなくてもわかる。
信じられない、と慌ててバスルームに駆け込んだ。



「じゃな、真知。あとで会おうぜ。9時に牧が来る予定になってるからそれまでに準備しとけよ」

「ちょっと、待ってよ翔太!」



まだ笑ってる翔太を呼び止めてももう遅い、かちゃりとドアが閉まって鍵が閉まる音もした。
所々ハネが残ってる髪の毛でホテルの廊下に出るには勇気がいる。



「翔太のばかっ!朝食、一人で行けって言うの!」



見えなくなった後姿に文句を垂れても仕方がないけど何か一言言わないと気が済まなかった。
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