マーメイド・セレナーデ
俺に、何かを言わせない先輩の集中力は、そばに居る俺さえも圧倒させるようだった。



「柏木くん、気付いてる?」



集中し始めたら一区切りが着くまで一気に仕上げる先輩が、初めて布地から眼を離さず俺に話しかけたことに驚いていた。
いつもなら、話しかけたりしない。
それは俺からも一緒。



「何に」

「そ、」



夏休み、新作が出来上がるまで、俺と先輩の会話はたったそれだけ。
夏休みが終わったら、文化祭まで時間はなかった。


衣装が出来てから、夏休みが終わってから。
文化祭まであっという間のできごとだった。
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