マーメイド・セレナーデ
知らず知らずずれて行くのを感じながらも俺はただ、流れに身を任せる。
任せるというのは、適当ではないかもしれない。

わかっていて、その流れを加速させるように動いていた。



「柏木くん、最近入り浸ってるね」

「家じゃ、なんにもできねぇし」



夏休み、美術室に行けばいつも先輩がいた。
被服室があるというのに、先輩はいつも美術室にいた。


髪は結われていないし、ボタンも2つ開いて、リボンタイにおいてはつけてすら居ない。
その姿に目を瞠はったのをみて、にこりと笑ってウインク一つで質問さえ受け付けられない雰囲気を出した人だった。


……そっちのほうが似合ってるよ。

いつも軽く結われている髪は、ふんわりと広がってふわふわしているようだった。
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