マーメイド・セレナーデ
甘い雰囲気なんて微塵も感じない。
キス。

見下ろす目は、今の今までキスしていた相手なんで思えないくらい、鋭い。



「着替えろ、色気のねえ女は横に置きたくねえ」



呆然としているあたしにそう吐いた。自分こそ紺のTシャツにジャージという部屋着のくせに。


身長があるからそれでも様になってるのは認めるわ。


着替えようとTシャツに手をかけたとき、気付く。


………あたし、下着付けてなかったわ。
だいきらいな奴に欲情されるのもいやだけど、されないのも困りものだわ。

翔太の様子を窺おうにも背中しか見えないのだから、わからない。

けれど、なんにも思わなかったでしょうね。


帰りたい、けれど。



「この時間じゃ帰るに帰れないし、今日も翔太と過ごさないといけないのね」



ため息が止まらない。
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