ずっと、好きなんだよ。
ドアノブに手をかける。


長い1日の終わりが見えてくる。


回しっぱなしの換気扇からハンバーグの良い香りが漂ってくる。


お腹は空いていない。


でも...食べたかった。


何かを口にしていないと、この行き場のない感情や得たいの知れないもやを押し潰すことも圧縮してしまい込むことも出来ないと思ったから。


母さんの前では作り笑いでもいい。


笑おう。


これ以上母さんの心労を増やしたくない。


無理にでも笑って、


誤魔化して、


うまく呼吸する。


誰にも負の感情をばら蒔かないように、


不幸の種を植えつけないように。


雨が降って育ってしまった悪の権化を


泥だらけになったとしても踏み潰して


心の底から虹を願うんだ。


そうするしか、ないんだ。



ーーガシャ。



鍵が回り、音が鳴る。



「ただいま」



雨で濡れたスニーカーを乱暴に脱ぎ捨て、居間へと向かったのだった。

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