【完】永遠より長い一瞬を輝く君へ
色を喪った庭を抜けいよいよ玄関の前に立つと、じわりと這うような緊張に襲われて、躊躇うように一瞬右手が宙を彷徨う。
けれど、病院のベッドの上で俺はもう覚悟を決めたのだ。
胸のペンダントを握りしめると、意を決してインターホンを押す。
ピンポーンとドアの向こうでチャイムが鳴ると、それに続いて「はーい」とドア越しに女性の声が聞こえてくる。
少しして、ガチャリと音をたててドアが開いた。
ドアの向こうから顔を見せたのは、ひとりの女性――紗友のお母さんだった。
「うそ、悠心くん?」
俺の姿に目を見開いて驚くおばさんは、記憶の中の快活なおばさんよりも痩せてひとまわり小さくなってしまった気がする。
「お久しぶりです」
「本当、久しぶりね。……もしかして記憶が?」
「戻ったんです。紗友のことを忘れるなんて、本当にすいませんでした」
垂直に体を折り、深く頭を下げる。
後悔してもしきれない。
記憶を失っていたせいで、紗友に会いに来ることもできなかった。
紗友のことを忘れていた間、俺はいったいどれだけ大切なものを掬いきれなかったのだろう。
するとおばさんの焦ったような声が降ってくる。
「頭をあげて。悠心くんが謝ることじゃないわ」
促され、躊躇いがちに顔をあげれば、眉を下げて微笑むおばさんがそこにいた。
「どうぞ、あがって」
おばさんに招かれるように、家の中に足を踏み入れる。