【完】永遠より長い一瞬を輝く君へ
◇ はじまり




心が、ぱきっと折れる音がした。


……いや、厳密にいえばそんな音が聞こえるはずはない。

けれどたしかに体のどこかで、心が折れた、そんな実感があった。


それは、高校の帰り道を歩いていた時のこと。

雨上がりのじめっとした空の下を歩いていると、向こうからいかにも柄の悪い男が、歩道を占拠しながら我が物顔で歩いてきていた。

嫌な予感は薄々感じていたものの、わざわざ道を譲るまでには至らなくてそのまますれ違おうとした時、大股で歩いている男の肩が俺の肩にぶつかった。


背だけはでかい俺はよろけなかったものの、その拍子に持っていたスクールバックが道に放り飛ばされた。

不運にもわずかに空いていた口から、数冊のノートが顔を出す。

さらに最悪なことに、それが水たまりの上だったから、ノートが泥だらけの水に浸ってしまう。


「いってぇな! 前見て歩けよ、ガキが!」


スクールバックを拾おうと腰を折った俺に向かって、畳みかけるように悪意の礫が降りかかってくる。


その瞬間、心が、ぱきっと折れる音がした。
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