【完】永遠より長い一瞬を輝く君へ

友達はいない。恋人はもちろんいない。趣味はない。俺――榊悠心(さかきゆうしん)にはなんにもない。


濁った水が木や泥を巻き込んで勢いよく流れている。

清流とは程遠い景色を、ぼんやり見下ろす。

いつもうららかに流れている川とは、別人のような顔をしている。


苦しいだろうか。

落ちてから、いったいどれだけ意識があるのだろう。


でもそれさえ超えれば、なにもかもを捨てられる。

そう思えば、これから襲われるであろう苦しみなんて安いものだ。


さあ、あとは重力に任せて落ちていくだけ。


さよなら、ろくでもない世界。


俺は鼻からひとつ息を吸うと、まるでふかふかのベッドに飛び込むみたいに上体を倒した――。




──水の中で、だれかが俺の名を呼んでいる気がした。

けれど混濁した意識の中では、それも不確かだった。



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