【完】永遠より長い一瞬を輝く君へ

俺は頬を持ち上げ、へらりと笑って見せる。

まるで自己防衛するみたいに。

けれどそれが痛々しいほどにへたくそな笑顔になっていることは、鏡を見ずともわかった。


「交通事故で怪我して、その夢はもうどうしたって叶わないんだけどな」


すると小坂は唇を引き結び、まっすぐに俺を見つめてきた。

顔を上げていることさえ躊躇われてしまうくらいに。


「どうして笑うの?」


偽物の笑顔とは対照的に、小坂の表情には嘘偽りがない。


核心を突く指摘に、弱虫な俺が暴かれるようで言葉を詰まらせる。


冷めてしまったカレーが、なにも言わずに俺たちのやりとりを見つめている。


「……悪い。今のは忘れてほしい」


情けなくこぼれた声は、尻すぼみになって空気に溶けていった。


逃げることばかりが板についた今の俺は、負け犬だ。


うつむく俺に小坂の声が降ってきたのは、それから間もなくのことだった。


「じゃあ」


その声に引っ張り上げられるように顔をあげれば、小坂が笑みを柔くして俺を見つめていた。


「話したいと思ったら話してね。いつでも聞くから」


小坂の笑顔の輪郭がぼやけるようにじわっと滲む。


いつまでもこんなんじゃだめだとはわかっている。

それでも、暗闇に差し出された手に縋りたいと思ってしまった。


「……ありがとう」

「さ、カレー食べよ! 冷めちゃう」

「ああ」


空気を切り替えるように、持ち上げたトーンで小坂が俺の背中を押す。

そうして口に運んだカレーは、冷めてはいたもののおいしいままだった。





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