【完】永遠より長い一瞬を輝く君へ
◇ きずあと




「榊くん、やっと来た~!」


昼休み。人目を避けながら教室を出て、いつものように屋上に扉を開けると、初夏の風と共にソプラノの声が俺を出迎えた。


「小坂?」


大きなお弁当箱を持って、仁王立ちした小坂がそこに立っている。


「どうしてここに……」

「せっかくだから、一緒にお弁当を食べようと思って」


にこにこ笑っている小坂。

けれど俺の方は困惑が胸の中にのさばって、笑顔を返せないでいた。


その理由はきっと、今日の朝目撃した光景のせい。


今朝高校に登校し教室に向かう途中で、俺は通りかかった空き教室の中からある声を聞き取った。

それは小坂の声。

姿を見たわけではないのに小坂のものだと不思議な確信があって、挨拶をしようか迷いかけて、俺は咄嗟に物陰に身を潜めていた。

小坂はひとりではなかったうえに、俺の名前が聞こえてきたからだ。


『紗友ちゃん、最近……なんだっけ、ああ、榊とよく一緒にいるよね』


物陰からそっと室内を覗くと、小坂の話し相手が同じクラスの日下部だとわかった。


日下部と俺の間に接点はないし、話した記憶もない。

けれど女子たちが、日下部のことをよくきゃーきゃーと噂しているから、一方的に知っている。

勉強も運動もできて人当たりがよく、男の俺から見てもかっこいいと思う、欠点のないクラスメイトだ。
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