【完】永遠より長い一瞬を輝く君へ
まるで泣いている子どもをあやすみたいに、小坂がとんとんと俺の背中を優しく叩く。
小坂の声が心になじんで、じんわり溶けていく。
強張った心がほぐれていくのがわかる。
ああ、なんて優しい声だろう。
「思い出をたくさん作ろう。それから明日の話をしよう。明日の花火大会、楽しみだね。花火、綺麗だろうなぁ」
空気を持ち上げるみたいに楽しさを声に滲ませて、小坂が俺に語りかけてくる。
明日のことを話す小坂の声はいつもよりも軽やかで、そして希望に満ちている。
それから小坂は体をそっと離すと、俺の顔の前でにこっと笑った。
その顔はなぜか彼女の涙で濡れていた。
それから小坂は俺の涙を両手で拭いながら、静かに口を開く。
俺を見つめる涙の膜で覆われた瞳には、慈悲と温もりがこもっている。
「ねぇ、知ってる? 私が生きる理由は榊くんだったんだよ」
小坂がくれた言葉は、俺には両手で受け止めようとしても持て余してしまうほどたいそうで似つかわしくない。
けれど小坂がくれたその言葉を一言一句取りこぼさず、宝物のようにそっと大切に胸の中にしまい込もうと思った。
「……ありがとう、小坂」
多分、きっと、俺の生きる理由も小坂だよ。