【完】永遠より長い一瞬を輝く君へ

「小坂?」


そう問えば、視界を覆っていた手が離れる。

そして背後を振り返ると、そこには浴衣姿の小坂が立っていた。


小坂の姿を目にした途端、俺は思わず言葉をなくしていた。


小坂は紺色を基調とした、紫陽花柄の模様があしらわれた浴衣を着ていた。

普段は下ろしている髪を今日はまとめて団子にし、細い首筋とうなじが露わになっている。

その姿ははっとするほど大人っぽくて綺麗だ。


「正解。ごめん、待たせちゃった?」

「いや、今来たとこだ。浴衣姿、可愛いな」


脳から直結するように、頭の中を占めていた本音が口からこぼれる。


すると小坂が俯いた。

そして口を尖らせ、拗ねたように声を投げてくる。


「……不意打ち、ずるい」


それから小坂は耳に後れ毛をかける仕草をしながら呟く。


「でも、榊くんに可愛いって言ってもらいたくて張り切っちゃった」


そう言う小坂の耳と首筋が赤いことに気づき、その照れが移るように心がこそばゆくなる。


なんでか完敗の白旗をあげたくなる。

ずるいと言う小坂の方が、よっぽどずるい。





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