エリート外交官は別れを選んだ私を、赤ちゃんごと溺愛で包む

 熱さに蕩けそうだった心臓が、冷水を浴びせられたようにキュッと縮んだ気がした。

 そう、勇梧さんはこんな――私を抱くなんてこと――する気、なかったんだ。

 分かってた。
 分かって、いたのに。

「なのに、悪い、君が欲しくて仕方ない」

 私は泣きそうになるのを見せないように彼にしがみつく。勇梧さんが息を呑んだ。

「あー……そういう可愛いことするから俺の理性が飛んでくんだぞ。分かるか?」

 優しくそう言って、私の頭にキスを落としてくれた。

「実はさ」

 ちゅ、ちゅ、とキスを繰り返しながら彼は続ける。

「伝えなきゃ伝えなきゃ、と思ってたんだけど……俺、日本へ帰ることになった」

 さすがに顔を上げてしまう。


 勇梧さんが、日本へ帰ってしまう……?


 彼はそっと私の頬を包み込み、柔らかな声で言う。

「着いてきて欲しい」

 なにを言われているか分からず、目を瞠った。――着いて、いく?

「好きだ」
「え?」
「答えはあとでもいい。いつでも、いつまでも待ってる。お祖母さんのこともあるだろうし――でも俺は君を諦めるつもりはない。絶対にいい形を探すから」

 至近距離に、彼の端正な眉目がある。お互いの、鼻の高さぶんだけの距離。そこで彼の精悍な眼差しが細められる。

 愛おしくてたまらない、とその目が言っていた。
 ぶわり、と涙が零れる。

「私、私――」

 なにも言葉にならない。
 勇梧さんは「いいんだ」とそう呟いて、それから私のシャツワンピースのボタンに指をかけた。

「構わない。他に誰か気になるヤツがいようと――ここで俺に抱かれてもいいと決めたのは君なんだから」

 するり、するり、と服を脱がされていく──

「ぁ……」
「愛してる、夏乃子」

 掠れた低い声で、彼が言う。
 その言葉で、私は頭がいっぱいで。
 一生分の幸せをもらったと、そう思った。
 私も大好きです。
 愛してます。
 死ぬまで、あなただけ――。

 だから、さようなら。
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