原作者の私ですが婚約者は譲っても推しのお義兄様は渡しません!
「そろそろ時間だ、火をつけるぞ」

 さすがに自分をじっと見つめてくるロザリンドの顔を見て、首を絞めることは出来なくなったのだろう。


「余計な事はもう言うなよ。
 時間稼ぎは無駄だ」

 最後に男がロザリンドにかけた言葉の口調は優しいほどだった。
 ヒロインが時間を稼いだら、物語ならヒーローが助けにくる。
 ギリギリのところで現れる。

 だけどロザリンドはヒロインではないし、もう『乙花』は終わっていた。


 男は最初に使ったように、またハンカチを彼女の口に当てた。
 気を失わせて炎が燃え広がる恐怖を味あわせないように 情けをかけたつもりなのか。
 それでも最後は、己の身体を燃やす余りの熱さに意識が戻るだろうに。


 薄れていく意識の中、ロザリンドはオスカーを想った。
 最後に見た彼は少しご機嫌斜めだった。

 教室まで送るよ、と言ってくれたのに断ったからだ。
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