原作者の私ですが婚約者は譲っても推しのお義兄様は渡しません!
 兄妹ふたりに対して何通もの釣書やお茶会、夜会の招待状が届けられた。
 それらの選別は全て彼等の母、コルテス侯爵夫人が行った。



 ウェズリーとロザリンドの破談も決定したのは、この母だった。
 ロザリンドが倒れた日、侯爵夫人はとある伯爵家のお茶会に出席していて、娘が倒れた報せを早馬で知らされた。


 自分が出掛ける時に丁度、娘の婚約者と玄関ホールで会ったので軽く挨拶を交わした。
 幼い頃から馴染んでいるウェズリーを彼女は信用していた。


 だから慌てて邸に帰るコルテス侯爵夫人を見送るために中座して、動転していた彼女に耳打ちしたホステスの伯爵夫人の言葉が信じられなかった。

『ラザフォード侯爵令息のお噂ご存知でしょうか?』と。
 伯爵夫人は尚も続けた。

『娘から聞いたのです。
 ロザリンド嬢が随分気に病まれているようだと。
 お倒れになったのは、その事が原因では?』


 最初は今回のウェズリーの『たかが気の迷い』で破談にするつもりは当主のコルテス侯爵にはなかったが、妻の意見でそれは決定された。


「悪気なく浮気をする男は、必ず何度でも繰り返すのです」


 そう言いきった妻の口調は冷たさを通り越して、何の感情も読み取れなかった。
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