かげろうの月
「痛いっ!!」
 私は叫んだ。
 尚哉は私の足の臑のあたりに、2度、3度と蹴りを入れてきた。胸ぐらを掴まれたままなので、逃げることも出来ない。その時尚哉と目が合った。
尚哉の顔は眉間に皺を寄せ、そこが赤く充血していて盛り上がっていた。
顔全体も紅潮していて、まるで赤鬼のようだった。
今までに見たことのない尚哉の顔がそこにあった。

きっと私も凄い醜い顔をしていたに違いない……。
 
 暴力を受けながらの激しいカードの奪い合いだったが、今日はなんとかカードを守った。でも……この先またこの様なことが起こるのは間違いのないことだ。その時はきっとカードを渡すことになるだろう。 

 あの奪い合いの時の尚哉の憎しみに満ちた顔は、今までに蓄えられていた不満や怒りが爆発しているようで、止めることが出来ない勢いがあり、恐怖を感じたからだ。

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