かげろうの月
 尚哉にはまだ理性が残っているのだろうか、顔は殴ってこない。
力は多少加減しているつもりだろうが、男の人の力は強い。
腕や足には青痣ができる。

 暴力を振るった後、尚哉はセックスを求めてきたりする時もある。
「ごめんね、さっきは痛かった?」
「彩ちゃんが言うことを聞いてくれたら、あんな事はしなくて済むんだから」と尚哉は言う。

暴力を振るっている時の赤鬼の顔から、恋人同士の時のような優しい顔に変身して、セックスを求めてくるのだ。

 私はいくら優しくされても、暴力を振るったことを謝っても、セックスを受け入れる気持ちにはならない。
1人てベッドで寝ていると夫は襲ってくる。
ここで抵抗すれば、今度は手や足の肉を摘み上げ、私に痛みを与えて押さえつけ、俺の言う通りにしろと無言の圧力をかけてくる。
もう…‥私は諦めるしかない……。

 尚哉は『ごめんね。さっきは痛かった』などと言ってくるが、謝罪する気持ちは本当にあるのだろうか。
セックスがお詫びのしるし?
それともただの性欲から?
女なんか抱いてしまえばい、暴力を振るった事なんか、帳消しに出来るとでも思っているのだろうか……。

男はほんとに身勝手な生きものだ……。

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