かげろうの月
母性
         
 息子の陽斗は生後8ヶ月を過ぎて、自我も芽生え始めている。そのせいなのか陽斗はよく泣く。
 
夫の浮気、言葉や身体への暴力で、
気持ちに余裕がなくなった私は、お腹が空いてる訳でもなく、オムツでもなく、訳が分からず泣いている陽斗に、
「何泣いているのよ!!」
「うるさい、うるさい!、やめてー!」と大きな声で激しく感情をぶつけてしまった。自分の大きな声にハッとして我に返った。気が付いたら両手は握り拳を作り、その拳を何処にぶつけていいのか分からず、ただ涙が流れてきた。
ギュッと握り締めていたので、手の平には爪の痕が残っていた。

 大声を出してしまったことへの後悔、これから先も同じような事が起こらないとは言えない。不安な気持ちになった……。

 妊娠前後、子供嫌いで母性を感じなかった私が、お腹の中で成長していくにつれて、少しずつ芽生えていった母性。息子が生まれて無心でオッパイを飲む姿に感動して。母性が目覚めていたと実感出来ていたのに……。
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