これって政略結婚じゃないんですか? ー彼が指輪をしている理由ー

結納

カコーン、と、庭先にある鹿威しの乾いた音が部屋に響き渡る。
お日柄も良い日曜日の大安吉日。私、高田晶紀(たかだあき)徳井徹也(とくいてつや)との結納を兼ねた食事会で、とある料亭の一室に席を設けられている。

晴れの席ではいつもワンピースを着用しているので、振袖に袖を通すのは成人式振りだ。
いつも洋装ばかり選んでいたのは、私が日本人女性の平均身長に届かない背の低さのせいだ。

『おはしょり』と呼ばれる腰のあたりで布を折り上げ、帯の下側に折り山を出してちょうど良い丈にする着方をするのにも、既製の着物は丈が長いため、胸の下から腰紐で長さを調整しなければならない。
それに加え、着崩れないようにとお腹回りをかなり締め付けられた上に、帯でお腹をさらに締めるせいで苦しくなるという理由からだった。

そのせいで、ヨチヨチとぎこちない歩き方はまるでペンギンのようで大和撫子にはほど遠く、下手すると七五三とからかわれそうだ。

席に着いたとき、成人式の会場で同い年の見ず知らずの人から『七五三みたいだ』と陰で笑われていたことを思い出した。

そのときの記憶があまりいいものではなかったせいで、つい「七五三なんかじゃないもん」と口にしてしまったけれど、幸いにもこの声は誰の耳にも届いていないようだ。

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