これって政略結婚じゃないんですか? ー彼が指輪をしている理由ー

もしかして、この婚約はカモフラージュ?

「はあ? 結婚だぁ?」
「ちょ、ちょっと弘樹(ひろき)、声が大きいよ」

一夜明けた月曜日、仕事が終わった私は、久しぶりに友人の白石(しらいし)弘樹を呼び出した。

フランス語で“羅針盤”を意味するカフェバー『boussole(ブッソール)』。
この店は駅の近くにあり、待ち合わせなどの利用客も多く、タウン誌に紹介される流行りのお店だ。私たちは、カウンター席に二人並んで座っている。
大きな声をあげる弘樹に、周囲からの視線が集まっている。そのことに本人は気づいていないようだ。
私は小声で弘樹に注意をしたけれど、火に油を注ぐ行為となってしまった。

「声がでかくなるのはしょうがないだろう? そんな話、俺は何一つ聞いてないよ!?」
「うん。だって直接会って話がしたかったから、ずっと我慢してたんだもん。……って弘樹、ちょっと私たち目立ってるかも」

弘樹を宥めながら周囲に視線を走らせると、何ごとかとこちらを見ていた人たちと目線が合った。
あちら側も私と視線が合ったことで、バツが悪そうに顔を背けている。
よかった、あとは弘樹を落ち着かせるだけだ。私はあっけらかんと事実を語った。

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