これって政略結婚じゃないんですか? ー彼が指輪をしている理由ー
いつも弘樹から恋バナの相談をされていたから、今日は完全に立場が逆転だ。

弘樹は恋愛(片思い)しているときは、いつもこんなふうに不安を私に晒し、それを私が『なるようになるから』と励ましていた。
でも一つだけ、細かいようだけど『奢るから』と言われても、ここの支払いはさっき徹也くんが済ませているから、そこだけは訂正させないと。

「うん、そうだね……って、ここの支払い、さっき徹也くんが済ませてたじゃない。弘樹の奢りじゃないじゃん」

「ううっ、まあ細かいことは気にするなって。ビールのあと何飲む? それ、奢るからさ」

この適当さに呆れながらも、場の空気を変えようと気遣ってくれる弘樹に甘えて私はジョッキの中に残っているビールを飲み干した。

「よしっ、じゃあ遠慮なく弘樹に奢ってもらおう。次、何飲もうかな」

「そうこなきゃ! いくらでも飲め……その代わり二日酔いになるなよ」

「まだ今日は月曜日だから、そこまで飲まないってば」

私は空になったジョッキをカウンターの上に置くと、目の前にあるメニューへと目を走らせた。
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