これって政略結婚じゃないんですか? ー彼が指輪をしている理由ー

うたかたー回想ー

あの後弘樹の奢りで生ビールをジョッキグラス一杯、酎ハイを二杯飲んでいい感じに酔っ払ったところでお開きとなり、弘樹に家まで送ってもらった。

玄関先で、久し振りに会った弘樹と母が挨拶している。お互い社交辞令で『また遊びに来てね』『はい』のやり取りのあと弘樹を見送ると、母に飲み過ぎだと窘められながら家に入り、シャワーを済ませて自室に戻った。

化粧を落とすと、鏡を見ながらコットンに含ませた化粧水を肌に叩きつけた。

二十代の今はまだ、多少お手入れをサボっても肌には張りがある。けれど毎日手を抜かずにきちんとお手入れしなければ、将来大変なことになるよと買い物へ行くたび美容部員さんに脅されるので、義務的にお手入れをしている。
スキンケアも終わり、再び鏡を覗き込むと、相変わらずの童顔に溜め息しか出てこない。

化粧もファンデーションを塗ってチークや口紅程度しかしていないから、劇的に顔が変わることもなく、昔から私のことを知っている友人は『顔に成長がない』と会うたびに言われる始末だ。

昨日の振り袖姿に合わせた化粧は、それなりに年相応の落ち着いた雰囲気に仕上げてもらったけれど、それを自分で再現してと言われたら無理だ。
スキンケアを済ませ、改めて鏡に映る自分の顔に溜め息が出る。

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