これって政略結婚じゃないんですか? ー彼が指輪をしている理由ー
「お昼から徹也くんと内覧行くんでしょう? その前にお使い頼んでいい? 美津子ちゃんには連絡しておくから、徹也くんの家で一緒にお昼ごはん食べて、それから内覧行きなさい」

母はそう言うと、手提げの紙袋を差し出した。
紙袋の中身は見えないように、会社の茶封筒に入れられている。A4サイズの封筒半分くらいの大きさで、割と厚みもある。どう見ても食べ物の類ではなさそうだ。

「結構重いね。これ、中身は何?」

私の問いに、母の目が一瞬泳いだような気がしたけれど、そのタイミングで父に呼ばれたから、追求はできなかった。

「これ、内覧物件の鍵、失くすなよ? 本当は父さんが一緒に行くつもりだったけど、仕事が入ったからごめんな」

内覧予定のマンションは、間取りを見て徹也くんが気に入った物件だ。本当は、このような内覧は不動産業者が立ち合いのもと行われるものだけど、今回は特別だ。
なぜならそれは、父が投資目的で購入したマンションの一つで、まだ賃貸に出していない。だからこそ、こうやって融通が利く。

「ううん、大丈夫。内覧ついでに空気の入れ替えしておくね」

「すまんが、頼む。じゃあ母さん、行こうか」

どうやら両親揃って出かけるようだ。

「はーい、行ってらっしゃい」

私は二人に返事をすると、両親は揃って家を後にした。

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