これって政略結婚じゃないんですか? ー彼が指輪をしている理由ー
そして時刻は十一時、私は出かける準備を始めた。
徹也くんに『今から出ます』とメッセージを送ったけれど、既読がつかない。

どうしたんだろう、珍しいな。
昨日も今日の時間を相談しようとメッセージを送っていたのに、それすら既読がついていない。

今日の約束は結納の日に約束していたから、忘れていることはないだろう。
私は再度、荷物をチェックすると、家を出た。

徹也くんの家は、うちから徒歩で十分くらいの距離にある。だから慌てて行く必要はないけれど、お昼ごはんをご馳走になるのなら、何かしらお手伝いしたほうがいいだろうと思ったのだ。
それに、母からの頼まれごともある。私は徳井家のインターフォンを押した。

「晶紀ちゃんいらっしゃい!」

美津子おばさんは笑顔で迎え入れてくれた。

「こんにちは、今日はお昼ごはん、ごちそうになります」

玄関先で挨拶をすると、母から預かっていた紙袋を差し出した。

「ああ、久子ちゃんからね。ありがとう」

美津子おばさんは袋を受け取ると、途端に満面の笑みを浮かべた。おばさんがここまで笑顔になるだなんて、一体何が入っているんだろう。

無事にミッションをクリアした私は、徹也くんの所在を確認しようと三和土に視線を落とした。

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