ラスボス聖女に転生してしまいました~婚約破棄され破滅する運命なので、生き延びるため隣国で錬金術を極めます~
 肩をぐるぐる回したり、柔軟体操をしながら、レオンハルト様は馬車を降りた。

 そして彼は私に手を差し伸べて笑顔を向ける。

「どうぞ、お足元にお気をつけください」

「えっ? あ、はい」

 私はその手を掴みゆっくりと馬車を降りる。

 差し出された彼の手は思ったよりも冷たくて、その温かい笑顔は先ほどまでの不安をかき消してくれるような不思議なものだった。

「お気遣い、ありがとうございます」

「いえいえ、お気になさらずに。リルアさんには何不自由なく生活できるように努めるのが僕の役目ですから。ご覧ください。こちらが我が家です」

 レオンハルト様の指差すほうを見ると石造りの大きな古いお城のような建物があった。

 えっ? あれが彼のお家なの? すっごく大きい……。

(大きさだけならフェネキス王宮に匹敵するかも)

 私は屋敷の迫力に圧倒されてしばらく声が出なかった。

 よく考えてみれば当たり前なのかもしれない。この方は公爵という身分なのだから。

 あまりに物腰が柔らかいので忘れてしまいそうになるが、立場としては王族の次にあたるやんごとなき御方なのである。

「立派なお屋敷ですね」

「気に入っていただけましたか? 僕はもう少しこぢんまりとした邸宅が掃除も楽でいいと思っているのですが、いかんせん錬金術の実験などにある程度の土地も必要でして。古いですが大きめの屋敷を別荘として購入したんです」

「えっ? ここ、別荘なんですか!?」

 こんなに大きな別荘って見たことない。

 でも、別荘という言葉には少しだけ納得した。よく考えたらこのあたりはまだアルゲニアの辺境だし、公爵様が住むところにしては田舎すぎる。

 おそらく本邸は王都付近にあるのだろう。

「別荘と言ってもここ数年はずっとこちらに住んでいますので本邸みたいなもんですけどね。王都付近に住むと面倒なんですよ。毎週のようにパーティーに誘われますし。一体なにが楽しくて毎度、毎度、あんな無意義な時間を……」

「…………」

「おっと、すみません。僕のパーティー嫌いの話などどうでもよかったですね。リルアさん、申し訳ありませんが今のお話は聞かなかったということで」

 慌てて私に耳打ちするレオンハルト様。

 一体どこまでが本気なのかわからないが、こちらにずっと住んでいるのならパーティーにはそれほど出席はしていないのだろう。
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