面倒な恋人
産みの母は妻のいる人と付き合っていた。
自分の中に、許されない恋に身を焦がした人の血が流れていると知った時はショックだった。
母親だけでなく、父親も妻がいながら女性と関係を持ったわけだからよけいに辛かった。
(昨夜のことは忘れなくちゃ)
奥野の両親と兄も、二十歳のパーティーで慎也さんが『僕たち、付き合うことにしました』と宣言していたから、今ごろ私が傷ついたと思っているかもしれない。
(大丈夫だよって言わなくちゃ)
泣いている場合ではないと気を引き締めた。
すると十年分くらいため込んでいた涙がまた少し頬をつたった。
なんの涙か、もうわからなくなってきた。
(唯仁も、一夜限りのことだと思っているはず)