面倒な恋人


紘成に連絡して、明凛が住んでいるマンションを聞いた。

『お前、知らなかったのか?』

驚かれてしまったし、呆れられたくらいだ。

『なにやってんだ、唯仁』

俺だってどこに明凛が住んでいるかくらい知りたかった。
でも本人には聞きずらかったし、迷っているうちに時間が経ってしまったんだ。
いや、言いわけだ。変なプライドが邪魔していただけかもしれない。

着換えてから明凛を訪ねてみたら、心配した通り泣いていた。慎也の結婚が泣くほど堪えていたんだろうか。

「お前、ひとりで泣いてたんだろ? なんでひとりで泣くんだよ」

目は充血しているし、鼻まで赤くなっている。
腫れぼったい瞼を見れば誤魔化せるはずもないのに、明凛は強がっている。

明凛の頬をツンと指先でつつくと、スツールから飛び上がりそうなほど驚いている。

「泣いてないよ」
「ウソつけ、目が赤いじゃないか」

その強がった言い方が、いかにも明凛らしかった。

「じゃあ、その涙は……」
「唯仁、お願いだから私のことは気にしないで」

思いがけない言葉に俺の感情は爆発しそうになった。

「どうして?」
「昨夜はお互いどうかしてたんだよ、きっと」

「お前、俺がなにも考えずにあんなことすると思ってるのか?」

戸惑っている明凛に、なんて言えばいいんだろう。

いいかげん、気が付けよ。鈍いところもひっくるめて、俺はお前のすべてを愛しているんだ。

「今日は帰るよ。顔を見に来ただけだから」

これ以上ここにいたら、また感情が爆発してしまいそうだった。
なるべく冷静になろうと玄関に歩き出した俺に、明凛が慌てて声をかけてきた。

「唯仁、お願いだから忘れて……」
「お前、俺がなにも考えずにあんなことすると思ってるのか?」
「はい?」

意味がわからずに明凛は戸惑った表情を見せる。

「お前だってわかったはすだ」
「唯仁」

「昨夜はお互いに求めあっていたって」
「やめて」

「俺は、いい加減なことはしない」

それだけは言いたかった。
明凛に俺の気持ちが伝わることを願って、マンションを出た。




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