面倒な恋人
進展なし





あの日から、唯仁は別人のようだ。
仕事が忙しいだろうに、メッセージを送ってきたり電話してきたりと私に構う。

(なかったことにはしてくれないんだ)

唯仁がなにを考えているのか、私にはつかめない。

あの夜に、責任を感じているのだろうか。
私が妊娠していないか確認するために、頻繁に連絡を寄こすのかもしれない。

そう思うと、ドキンと胸の奥でなにかが弾けた。

(私を産んだ母親と同じようなことをしてしまった……)

なるべく気にしないようにしてきたが、自分の母親が不倫の末に私を産んだ事実は重かった。

(もし妊娠していたら、どうしよう)

唯仁は独身だが、私の恋人ではない。
もしそんなことになったら、彼にとって困ったことになるはずだ。

(いつわかるんだろう、妊娠って。その前に可能性がある日だったっけ)

これまで恋人もいなかったし、考えたこともなかったからすぐに計算できない。
仕事が終わって帰宅してから、こっそりネットで確認してみたりもした。

(検査するなら、前の生理が終わってから五週間後、あの夜から三週間くらい?)

カレンダーを見ながら、指で数えたりもしてみる。
まだその時期ではないが、毎月の訪れが不規則な私には予測しずらい。
病院に行くよりも家で確認できるようにと思い、検査薬だけは買っておくことにした。

(もし、妊娠していたら?)

考え始めたらキリがなかった。

(こんなことになるなんて……)

恋なんかしないと思っていたけど、それより先に妊娠の心配をするなんて思いもしなかった。

恋って、どんなものなのだろう。
情熱に身をまかせ、甘い言葉を囁くのだろうか。

(情熱……)

あの夜の唯仁の視線、言葉、その指の温かさが鮮明に思い出されてビクッと身体が震えた。
それは怯えではなく、どこか甘い痺れるような感覚だ。

(私は唯仁を受け入れてしまった)

ただ唯仁に触れたくて、自然に身をゆだねてしまった。

彼の優しい手が身体のあちこちに触れた記憶が恥ずかしい。

ひとつになる瞬間に『俺を見ろ』と言われたっけ。

(あれは欲望? 愛情? それとも……)

またフルリと身体が揺れた。



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