面倒な恋人
そんな落ち着かない日を送っていたら、兄から連絡が入った。
『元気か? 土曜にメシでも食おう』
唯仁と同じタイプだけあって、兄もいつも短いメッセージしかよこさない。
きっと慎也さんの結婚を知って、私が落ち込んでいると思っているのだろう。
『OKだよ。おごってね』
兄には、慎也さんの結婚は気にしていないし元気にしていると思ってもらいたかった。
兄からはお店の場所が送られてきた。
(ここ、人気のイタリアンレストランだ)
弁護士として忙しく働いている兄が、よく知っていたなと驚いた。
約束の日、お洒落な場所だったから少し濃い目に化粧をして、わりとお気に入りのブランドのセットアップを着た。
ぺたんこ靴ではなく、ヒールのあるパンプスも履いてみる。
また兄に『馬子にも衣裳だ』と笑われるかと思ったけど、たまには成長したと思わせたい。
押さえた色味の外観が洒落ている店に入って名前を告げたら、マニッシュなスタイルの女性が奥の席に案内してくれた。
「お連れさまがおみえになりました」
土曜日だけど、兄もスーツでキメている。
お洒落してきてよかったと思ったら、兄の隣には初対面の男性がいる。
兄と同い年くらいに見えるけど、ワイルドな兄と違ってキチンとした印象の眼鏡が知的な人だ。
「高畠、妹の明凛だ」
「はじめまして。高畠直樹です」
「はじめまして。奥野明凛です。えと、兄のお友だち? ですか?」
「俺の同僚だよ。一度、お前に合わせたいと思っていたんだ」
どういう意味だろうと考えていたら、私の顔にその思いが出てしまったようだ。