面倒な恋人


何年越しだかわからないくらいの俺の想いを知っていたのかと思うと、カッと頭に血がのぼってきた。

「知ってたなら『妹としか思えない』とか言って、明凛を諦めさせてくれたらよかったのに!」
「あの頃のお前は素直じゃなかったし、どこまで明凛ちゃんに本気なのか怪しかったじゃないか」

明凛が大好きだったのに、小さい頃は顔を見ればイジメるか泣かせてしまっていた。
意識し始めてからはわざと無視したり、明凛を避けていたのだから言い返せない。

「子どもの頃の明凛ちゃんは、お前のあとを追いかけていたよな」
「え?」

アニキの言葉は意味がわからなかった。

「明凛が? 追いかけていた?」
「なんだ、気が付いていなかったのか。あんなに必死に走っていたのに」

泣くのをこらえて明凛は俺のあとを追いかけていたとアニキが言う。

「何回泣かされても、あの頃の明凛ちゃんはお前のあとを追いかけてたよ」

幼い頃、四人で遊んでいた記憶を辿るがはっきりしない。

「お前が泣かせるから、仕方なく僕が慰め役をしていただけだ」

自分をイジメる相手より、慰めてくれる相手を頼ってしまうのはあたり前だろう。

「お前を追いかけても傷つけられてばかりだったからな」
「でも、明凛はずっとアニキのことを……」

「明凛ちゃんは自分が養女だってわかってから、ますます自分を嫌う相手から逃げたんだ。その気持ちがわかるか?」

明凛は誰からも嫌われたくなくて、自分の周りにバリアを張ってしまっていた。
それがわかっていたのに、俺は優しくしてやれなかったんだ。

俺自身の行動が明凛を遠ざけてしまっていた原因なのかと思うと後悔が押し寄せてくる。

「お前、今だって明凛ちゃんが大切なんだろ」

「ああ。もちろんだ」
「僕もドイツでエミリアに会って救われた」

背伸びしなくても彼女が引っ張ってくれるし、そばにいてくれるだけで落ち着くんだと惚気ている。

「居心地のいい相手に巡り合えるって、最高だな。お前も明凛ちゃんとそうなることを願っているよ」

エミリアと出会ったことで、一皮むけたように余裕を見せるアニキが羨ましかった。
俺はまだまだ、明凛の心をつかめていない。

その時、階下から大きな声が聞こえてきた。
母と(エミリア)がパーティーのことでもめているようだ。

「じゃあ、披露パーティーにはきてくれよ」
「予定はわからない」

素っ気なく言うと、俺がまだ意地を張っていると苦笑していた。

(明凛が顔を出さないっていうなら、俺も行く気はない)

一時期、母が慎也の恋人として連れまわしていたから気まずいのだろう。

このままでは明凛を失いそうで、俺の気持ちは焦るばかりだった。



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