面倒な恋人
慎也さんが結婚したことで私が傷ついたと思ったから、慰めてくれただけ。
それが一番、真実に近い気がする。
なおさら赤ちゃんができたなんて言えない。
もし私が妊娠したと知ったら、唯仁なら『責任を取る』なんて言いだしそうだ。
それだけは避けたいし、そんなことを唯仁にさせたくない。
(あの日は私だって帰りたくないって言ってしまったんだし)
それなら、私の答えはひとつだ。
(この子は、私ひとりで育てよう)
私を産んだ人は自分で育てるのではなく養女にしたけど、私は嫌だ。
この子はなんとしても、自分の手で育てよう。
命を授かったからこそ、あの夜、唯仁と結ばれたことを後悔したくない。
それくらい私の中で唯仁の存在は大きくなっていた。
考え事ばかりして眠れない夜が続いたせいか、土曜日の朝は頭痛で目が覚めた。
産婦人科を予約している日だから早く起きようと思ったのだが、やけに身体が重い。
起き上がろうとしたら、クラッと眩暈がした。
(病院にいかなくちゃ)
焦れば焦るほど気分が悪くなってくる。
妊娠しただけで、こんなに体調が変化するのかと狼狽えてしまう。
(ひとりで育てるって決めたんだから、弱気になっちゃダメ)
なんとか着換えて、私はタクシーで病院へ向かった。
先週は時間外に受診したから内科の男性医師だったが、今日は女性の産婦人科医だ。
同性だと思うとリラックスした気分になれたし、なにより話しやすい。
今朝の眩暈と頭痛を相談したら、勤務中の吐き気が怖くて水分をとっていなかったから軽い脱水症状だと診断されてしまった。
「今日は点滴しておきましょう。すぐに気分がよくなりますよ」
「ありがとうございます」