面倒な恋人
信じあうことはできますか
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なるべく『妊娠』を意識しないように過ごそうと思ったが、ダメだった。
ついお腹に手を当ててしまったり、体育の授業でドッジボールをした時もお腹を庇ったりしてしまう。
家でひとりになると『唯仁に話さなくちゃ』と思ってスマートフォンを手に取るのだが、発信する前に怖気づいてしまう。
指先でタッチするだけで唯仁につながるのに、どうしてもできない。
いきなり私から『妊娠しました』なんて聞かされたら唯仁はなんて思うだろう。
考えても考えても、答えは出なかった。
(私を産んでくれた人は、どんな気持だったんだろう)
これまで嫌っていたのに、自分が似たような立場になると妙に気にかかる。
子どもを身籠ったとわかった時、嬉しかったんだろうか、それとも後悔したんだろうか。
結婚できると信じていた相手とは結ばれなかったという。
それでも私を出産して、奥野の両親に託してくれた人。
(悩んで、悩んで……辛くて、それでも嬉しくて)
同じような時間を過ごしていたのかもしれないと思うと、初めて共感できた。
相手の人を愛して信じていたんだと思うと切なかった。
ふと、幼い日の思い出が頭の中を過る。
置いていかれそうになっても、必死で唯仁のあとを追いかけていたあの頃。
でも結局泣かされて、慎也さんに慰めてもらってた。
幼なじみで、いつも皮肉な言葉を言ってくる意地悪な人。
だけど、時々、ものすごく優しい人。
病院で心配そうに私を見つめてくれた瞳に嘘はなかった。
(あの夜もそうだった)
唯仁とひとつになる時、まっすぐに視線をあわせた。
『明凛を抱くのは俺だけだ。俺だけを見ろ』
あの瞬間、唯仁の瞳にあったのは、なに?
『俺が言っても信じてくれないかもしれないが、いつも明凛のことは気にしてる』
私のことを嫌っていると思い込んでいただけなんだろうか。
(唯仁は私のこと、どうして抱いたの?)
答えを知りたかった。
でも、唯仁に聞くのは怖かった。
過ちだったなんて言われたら、お腹の赤ちゃんがかわいそうだ。