聖女、君子じゃございません
 そんなことを考えている内に、昼を知らせる鐘が鳴った。未だ、隣のアーシュラ様の部屋からは、何の物音も聴こえない。


「――――――アーシュラ様、そろそろ起きてください。もうお昼ですよ?」


 躊躇いがちにアーシュラ様の部屋の戸をノックする。


「うーーん? ローラン様?」


 すると、まるで今もまだ夢の中にいるかのような寝惚け声が返って来た。


「おはよー……」

「……ですから、もうお昼です」


 ドアに耳を当てなければ聴こえないぐらい、アーシュラ様の声はか細く小さい。けれど、傍から見て、女性の部屋の外で耳を聳ている俺は、怪しい男以外の何者でもないだろう。


「アーシュラ様の準備が整うまでは、自分の部屋に居ます。終わられたら声を掛けてください」

「えーー? それじゃ起きれる気がしないです。中に入って起こしてください」

(……はぁ?)


 その瞬間、俺は己の耳を疑った。これまで、アーシュラ様からありとあらゆるトンでも要求を受けてきたが、中でもこれはトップクラスだ。

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