地味子なのに突然聖女にされたら、闇堕ち中の王子様が迎えにきました
「うーん、なんか同じような奴切ってると飽きるな」
そう言って、また会場中から新たな獲物を探す。さーっと見渡して、子供たちの集団が目に入った。
「お、子どもがいるじゃないか」
自分達の方を見られながら言われ、ゾッと全身が震え上がる。
まさか、教会の子供達!?
次の狙いは、あの子達だと確信すると、さっと血の気がひいた。
「そうだ、お前らだ。おい新しいボウガンあっただろ、持ってこい。的は小さくて、すばしっこい。射撃性能みるにはうってつけじゃないか」
「あと射撃の腕も、ですね」
あはは、と笑いが湧き上がるアンバー達一行。一方的な殺戮を心から楽しんでいるのだ。
「頭と心臓100点、腹50、手足30ってとこか。誰が1番点取れるかゲームしようぜ」
完全に常軌を逸してる発言。子供の体を的にして射撃ゲームしようって言うのだ。
「よし、あいつら壇上へ上げろ」
正気じゃない。
泣き喚く子供たち、無理矢理シスターから引き離され、壇上へ連れていかれる。
トリシャにぎゅっとしがみついていたティムも、男に引き離されそうになっている。いつも意地っ張りで頑固なティムだが泣き叫んで懸命に抵抗する。
なんとか取り返そうと反抗するトリシャの体に男の剣が振り下ろされそうになった瞬間、イヴはたまらず身を乗り出して声を上げた。
自分が死ぬ恐怖よりも、彼らに危害を加えられることの方がよっぽど怖かった。
「ま、待って……っ!」
「あ?」
「待ってください!わ、私、ハープが弾けます。歌も少し」
「いや、お前らの舞やら歌やらは、もう飽きたんだが」
一瞥され手で払うような仕草をされる。やっぱりダメかと思ったその矢先、視線がまた自分へ戻り、今度は興味深く見つめられた。
「……お前、他の天妖族と毛色が違うな。親はどこの生まれだ」
「わ、分かりません」
「子ども射的ゲームに割り入ってきたんだからな、退屈させるようなら1番残酷な殺し方してやるからな」
一番残酷な殺し方にゾクっとするも、とりあえず聞いてもらえることになって胸を撫で下ろす。
震える足を鼓舞して壇上へ歩き出そうとした矢先、トリシャも手を上げて訴えた。
「私の方が上手に弾けます」
「あ?」
「私も、参加してもよろしいでしょうか?」
頭を下げるトリシャに続いてジェコフ神父も手を上げた。
「私もオルガンで参加させてもらってもよろしいですか?」
死に急ぐおかしな奴らだと、呆れ顔のアンバー。足を組んで顔の前で手を振る。
「あぁ、もう勝手にしろ」
壇上に3人揃うと、楽器の準備をするフリをしながら2人に話しかけた。
「ど、どうして?」
殺されるだけなのに、どうして手を挙げてしまったのか。イヴの声は震えていた。
「君と同じ理由だよ。いてもたってもいられなくてね」
「皆、子ども達も君も家族同然だからね。見てるだけなんて耐えられない」
ここで戦おうとしたって、絶対かなわないのは分かってる。
解決できる訳でも逃げられる訳でもない。ただの時間稼ぎにしか、きっとならないだろう。
だけど、一縷の望みを最後まで捨てられない
何があるか分からない。
もしかしたら誰かが助けに来てくれるかも、と望まずにはいられない。
だって、こんなの理不尽過ぎやしないか
戦い方を知らない私達は、このままあいつに嬲り殺されるしかないのか。
救いなんてなく、自分達が屠られた後、子ども達がどんな目に遭うか。
どうして助けてあげられないのか。悔しくて悔しくて、胸が張り裂けそうになる。自分の無力さが腹ただしい。
トリシャがハープ、ジェコフ神父がオルガンを弾くことになり、イヴが歌うことになる。本当なら婚姻式用に準備された楽器だったのに。まさかこんなことになるとは。
壇上下で、先程ナイジェル先生に詰め寄られ、涙を呑んで見守るしかない、と答えたシャーマルが苦しそうな表情をしていた。
シャーマルも目の前で繰り広げられる惨劇に、ついに限界に達したのか、影の方で見ていた、黒いローブを纏い深くフードを被った老婆を見つけると、息を切らして彼女の元へ駆け寄った。
「どうにかならないんですか!」
声を荒げるシャーマルに、黒いフードから黒目の小さな目が覗く。ちらっとシャーマルを見て、胸の前で両手を組む。
「祈りなさい。この国を助けたければ祈りなさい」
「祈りで、人の思いだけでは、人は救えませんよ」
「そうだな、でも、もしそれで救えたとしたら?」
「そんな奇跡みたいな、」
その様子を見ていたナイジェル。
半信半疑で、目を瞑って両手を組み、祈りを捧げ始めた。
ナイジェル先生の姿を見て、生徒達も一心不乱に両手を組んで祈りを捧げ始めた。
月の歌、雨の歌、花の歌。
なんの歌を歌おうか。
教会でメンフィルに古くから伝わる歌を、おばあちゃんやおじいちゃん達から習った。
少しでも時間を稼ぎたい。
気に入ってもらえなければ、すぐに中断されて殺されてしまうかもしれない。
理不尽に手のひらで転がせられる命。
九分九厘、地獄行きの運命のルーレットを回すこのフィールドの支配者、死神アンバー。
死神に鎌を喉元に突き付けられながら歌わなくてはいけないなんて。
楽器隊のトリシャと神父は、悩むイヴを傍目に固唾を飲んで見守った。