地味子なのに突然聖女にされたら、闇堕ち中の王子様が迎えにきました
 
 
 
「ひぇえぇぇぇっ」

 先程までアンバーの殺戮ショーを見ながら、下卑た笑みを浮かべていた男がこの世の終わりを覚悟したかのような情けない悲鳴をあげている。


「うるせぇな。まだ子どもだよ、いちいちビビんな」

そんな戦意喪失したアンバーの仲間を、荒々しい口調で罵りながら、一瞬にして剣で突き刺して黙らせると、サッと慣れたように付いた血を振り払った。

 その口の悪い青年は、イヴを助けた人と同じ黒い軍服を身にまとっている。
 金色のくせのある髪の毛に、大きい吊り目が特徴的。男性陣の中では一番小柄で、一番年が若く見えた。背中に剣を2本交差させて背負っている。


「え?アベル、自分のこと?」

 その彼はアベルというらしい。彼をからかうように、4人の中で唯一の女の子が近づいて来て言う。メンフィルには綺麗な女の子がいっぱいいるが、それ以上、むしろ今までで出会った女の子の中で1番綺麗かもしれない、という位の綺麗な外見をしている。
 右眼がペールブルーに、左眼は淡黄色のオッドアイ。サテン糸のような艶のある紺色の髪をツインテールにしている。
 

「ジゼルてめぇ、グレンのお気に入りなんだか知んねぇけど、調子のってんなよ」

 その綺麗な女の子はジゼルというらしい。彼女に煽られ、アベルの短い導火線に火がつく。

「ごめんね、実の弟より気に入られてて」

「あ?」

 アベルは自分より少し背の低いジゼルの顔を覗き込むよう睨みつける。彼が一言二言脅し文句を言うより先に、ジゼルから、からかうように頬へ軽くちゅっと口付けをされた。

「てめぇ、このやろっ」

 更に怒る彼をからかうようにぺろっと舌を出してふざけて見せるジゼル。

「アベル、ジゼル、いい加減にしろ」

 2人を窘めるように口を挟んだのは、グレンと言われていた体格の良い男の子。この4人小隊のリーダーのようだ。


「レオ、後ろのソレが目的のものか?」

も、目的?

頭にハテナマークを浮かべながら、狼狽えているイヴ。そんな彼女を、レオと呼ばれた男の子がチラッと見て素気なく答えた。

「たぶん」


レオというんだ。

助けてくれた男の子の名前が分かって、改めてまじまじと見つめるイヴ。

「へぇ、なんか想像してたのとちょっと違うな。なんか地味っつーか」

 地味、とよく言われる言葉だが、初対面でアベルに言われ、イヴは顔を隠すように俯いた。

「この混乱で見失っても面倒だ、レオ見張ってろ」

  
「了解」

 リーダーのグレンの指示に返事をするレオ。さっきから、イヴのことを前から知っていたかのようなやり取りだ。

 目的ってなんだろうか。私に何か用があるんだろうか。そもそも、この方達とは今日が初めましてなんだけど、どうして私のことを知っているのだろうか。

 1人もんもんと、レオの後ろで考え込むイヴ。


「で、俺らはどうすんの?」

 アベルに聞かれて、間髪入れず指示を出すグレン。

「あいつは俺とアベルで片付ける。ジゼルは残党一人でいけるか?」

 手慣れた様子で美少女には似合わないイカついサブマシンガンとショットガンの弾をリロードしながら答える。

「余裕です」

「ジャンガルラの子どもで漏らす位だからな。秒で終わらせろよ」

「お前もな」

 横目で見ながらそう返され、またアベルの頭が沸騰する。
 
「俺はこれでもガイアの王子なのに、お前ってなんだよ!なんで、あいつは俺にだけ口悪いんだよ。なめてんのかよ、あのビッチ。グレン兄、あいつちゃんと躾けろよな!」

 ギャンギャン喚くアベルに、あー、わかった、わかったと面倒そうに返すグレン。

 一掃するには銃で乱射するのは手っ取り早いが、調子に乗って見境なくなっては面倒だ。

「分かってはいると思うが、メンフィルの人間には当てるなよ」

「分かりました、気を付けます」

 グレンの念押しに素直に頭を下げるジゼル。自分との違いに更にアベルが気を悪くした。



「アベルは目な、俺は首にいく。わざわざ、言うまでもないが外すなよ」

「いちいち、心配症なんだよグレン兄は。誰に言ってんの」

 はぁ、と末の弟にため息をつかれる。この王子三兄弟にジゼルを加えた4人小隊は、ガイアでも最強の隊と名高く、その功績は世界でも轟く程だった。
 しかしリーダーのグレンからしてみては、この隊は個々の能力が高いせいか連携が拙いし、レオという不安要素もあり長期戦は不利になる。

 そして末っ子の三男とジゼルは自信家で、相手を侮りやすくすぐに調子に乗る。
 物心ついた頃から王子には相応しくない死線をくぐるような修行をしていたが、それが災いしてか力を手に入れたは良いが大きな自信も与えてしまったのだった。

 人相手ならまだしも、魔獣を相手にする時は手を抜かず本気で挑まないといつ命を落としてもおかしくない。

 どんな名高い戦士でも、死ぬ時は驚く位あっさり死んでしまう。


魔獣相手にテンションを上げるアベルを制すように、自分の前を走る弟の名前を呼んだ。


「アベル!」

「グレン兄、ちゃんと分かってる」

  静かにそう答える弟。顔を見るとちゃんと狩猟をする時の顔になっていた。あぁ、そんな目ができるようになったか、とちゃんと真剣モードに切り替わっていたことに安心するグレン。

 二人で目を合わせて合図し、同時に攻撃を加える。アベルは2本の剣で、グレンは巨大な斧で。



 ギアァァァァァァ

 けたたましい絶叫。

 一度では首を切り落とせなかったものの、斧を振り落とされた首からは激しく血が噴き出している。目にもしっかり一撃加えられたようで、赤い血の涙を流していた。

 視界を奪われて足元が覚束ない獣。激烈な痛みは、激しい怒りとなってのたうち回るように暴れ始めた。

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