地味子なのに突然聖女にされたら、闇堕ち中の王子様が迎えにきました
ハイデラも、三兄弟の意向ならとため息をつきながら、それ以上食ってかかってくることはなかった。
まさか、グレンとアベルが味方してくれるとは思わなかったが。ちょうど薬を飲み始める頃、憔悴し切った何か諦めたかのような様子のグレンと、泣きそうな顔で母親の後ろにしがみついてこちらを見ていたアベル。
感情が乏しい時期が長くなっても、幼い頃兄弟と遊んだ記憶や一緒に稽古に励んだ記憶はちゃんとある。
まさか、自分の気持ちを表出するだけで、こんなに2人が喜んでくれると思わなかった。
……なんだろうか、こんな温かい気持ちになるのは久しぶりだ。
あぁ、そうか俺も嬉しいんだ。
※※※
そして始まった晩餐会。
息もままらないただならぬ緊張感の中で、
早速、私は窮地に立たされていた。
ぼとっ
と、肉塊がナプキンを敷いた太ももに落ちたのだ。
皆が私の一部始終を見ていた。
慣れぬフォークとナイフを使って、不器用にガチャガチャ音を立てて肉を切る様子を。
そしてやっと切れたと思いフォークで突き刺し、口の中に放り込もうとした瞬間。
そう、冒頭の結果になったのだ。
軽くパニックになりながら、太ももに乗ったお肉をどうするか悩む。
きっと、そっとナプキンで包んだ方が良いのだろう。だけどこんな立派なお肉もったいない。
だからと言って皆が見守る中、こっそりまたフォークで突き刺し口へ放るなんてできっこない。
特に、斜め右前に座る第一王妃様は鋭い目で私を睨みつけている。
そうこう悩んでいるうちに、床へ転がっていったお肉。
もったいないと思いつつ、右手を伸ばすと、ぴしゃりと厳しい物言いで第一王妃様が口を出した。
「おやめなさい、拾わなくて良いのです」
「母上!」
息子のグレンさんが慌てるように声をかけた。
「ご、ごめんなさい」
バツが悪いように謝る私に、すぐメイドさんが拾いに来てくれた。
しばし流れる気まずい沈黙。私がどう身支度を整えたところで、この場に馴染むことはできないだろう。
そんな中、一番遠くの上座から、このタイミングで思いもよらぬお方からお声がかかった。
「そのようなドレスなんて着慣れないだろう」
国王様、三兄弟のお父様から声をかけられ、はい、と静かに答えた。アマンダさん達は似合うと褒めてくれたけど、やはり似合わないのだろうか。
「こちらに合わせて無理をさせてしまい申し訳ない。私の前だからと気を張らなくて良い。ジゼル、君のラフなワンピースを貸してあげなさい」
「ワンピースなら私が!」
そう名乗り出たのはピンク色のドレスが可愛らしい第三王妃。第一王妃とは違い、私以上にそわそわしながら私のナイフ使いを見守っていてくれた。
しかし、そんな立候補もむなしくこの場、いやこの国の最大権力者に微笑みながら却下される。
「いや、君にはいてもらわないと困る。この場の盛り上げ役だからね」
そんな突然の指名に分かりやすい程狼狽え、救いの息子のアベルさんを見つめ助け舟を求めるも、そっぽを向かれてしまう。
「ジゼル、こちらは気にせずゆっくりで良いからね」
王様ご指名のジゼルさん。無表情で、「はい」と返事をして立ち上がった。私の方をチラッと見て、慌てて立ち上がる。
大広間から出て、またあの長い廊下へ。足早なジゼルさんの後ろを小走りでついていく。
サラサラと細い腰の辺りで、右に左に揺れる綺麗なストレートヘアー。大理石の廊下をカツカツと細いヒールで歩く姿に、後ろから思わず見惚れてしまう。
なんて、かっこいいんだろう。
歩き姿もさることながら、美し過ぎるスタイルに釘付けになる。
ジゼルさんはコルセットを着けず、背中がざっくり腰の辺りまで空いた、体の線に沿った深くスリットの入った銀白色のロングドレスを着ていた。
程よくある胸に、ウエストから腰まで無駄な肉がなく、細長い足は綺麗に引き締まっている。
ちらっと後ろを振り返ったジゼルさんに、慌てて腰や足から目を逸らした。
「さっきのこと、気にしないでね。イザベラ様も悪い人じゃないのよ」
「は、はい」
「あなたを守りたくて言ってることだから。私は平気だけど、あなたそういうの気にしそうだから」
「そういうの?」
「周りの目、とか」
そう言われ、目からウロコ。あの人はただ厳しくしてたのではなく、私が外で恥をかいて傷つかないように言ってくれたのか。
怖いなんて思っちゃったけど、なんて良い人。