透明な君と、約束を


移動した大きな撮影スタジオではバタバタと走り回る人々や出演者達。
私は昔憧れた主演の人々の側で、自分の名前がきちんと載った台本を持ったまま周囲を眺める。
既に放送は始まったというのにまだ数話分撮り終えていないが、これで通常だ。

そんな空気を感じながら実感する。
やっとここまで来られた。
あの喜びと悲しみと、そして目標をくれた人の側まで。
それは全て彼が導いてくれたかのように、私は真っ直ぐに進むことが出来た。
一緒に居た時間は短くても、今も鮮やかに彼といた時間を思い出せる。

スタッフや同じ主演者に挨拶しながらお目当ての人を見つけた。

「阿部さん」
「柏木さん」

高校の私の先輩でもあり鹿島さんの後輩でもあった阿部さんは、今回このドラマに出演が決まった。
それも阿部さんから監督に直談判したらしい。
そもそも阿部さんに演技力の問題は無く、監督としてはむしろ花のある阿部さんは出て欲しい人物だったようだ。
それも実際に鹿島さんの後輩で彼を尊敬しているというのを脚本家さんは聞いてインスピレーションを受けたとか。
よって急遽鹿島さん、春の後輩役として出演が決まった。

「柏木さんが鹿島さんファンと知ったときには驚いたけど、お互いこのドラマで初共演ってのもあれだね」
「鹿島さんが繋げてくれたのかも知れませんね」
「だとしたら嬉しいな」
「きっとそうですよ。
鹿島さんは面倒見良いですし優しいですから。
時々容赦ないですけど」
「はは、僕なんかより遙に柏木さんの方が先輩を知ってるよ」
「そりゃ熱烈な鹿島さんファンなので」

お互い顔を見合わせてると笑い出す。
阿部さんはきっとこのドラマに出ることでやっと肩の荷が下りるのだろう。
晴れ晴れとしたような顔の阿部さんと別れ、私は自分の定位置に戻った。

今回ももちろん山場として告白シーンはある。
10年前、彼が春として告白したそのシーンは、今でも誰かの背中を今も押しているのだろう。
そんな風に私も誰かの背中を押したり、心に残る演技がしたい。

今から撮影するのは私の部屋でのシーン。
部屋の雰囲気は大人びたシンプルなデザインなので全く違うモノだけど、それを見ていると高校生の時女の子の部屋とされたスタジオで鹿島さんに怒られながら雑誌の撮影をした時のことを思い出した。

そんな私の部屋の中にあるローテーブルの上には、困ったように笑う鹿島さんに私が腕を絡ませくっついている合成写真が、オレンジ色の可愛らしい写真立てに入っている。
これは私が提案したものだが監督達もOKを出してくれ、美術さんも写真を喜んで作ってくれた。
今回の撮影には十年前このドラマに関わった人達も数名いるからだろう。
それだけ彼が愛され、今も思い出してくれる事が私は嬉しい。

写真立ては私が一目惚れして買った物。
撮影後、写真をもらえることになったので、この写真立てはいずれ私の本当の部屋に飾られる。
呼び声がかかり、私は配置につく。
私は夕陽のように鮮やかなオレンジ色の写真立てをそっと撫でた。

『見ていて下さいね、渉さん』

演技をスタートさせる大きな声がスタジオに響く。

今、私は彼の妹。
だけど鹿島さんの最後の恋人でもある。
彼の側にいられるような事が続いているのだから、またいつか彼と出会えるような気がしてしまうのはおかしいだろうか。

だって私は、彼と何度も約束をしたのだから。

私だけに浴びせられる眩しいライトに包まれながら、私は顔を上げた。

<END>
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