ラブアド〜シオリの物語〜

歓迎会の夜

男と女……100人の男女がいれば、100通りのドラマがある……。

お互いに彼氏、彼女がいる男女の友情……。

初めは、そんな関係だった……。

この時はお互い、仕事先で楽しく一緒に働いているだけだった……。

この時はまだ、俺はシオリが今までどんな切ない恋愛をしてきたのか知らなかったから……。


「今日も店長と一緒だぁ!あんまりやる気ない……」

メルアドを交換し、共通の敵?をみつけた俺とシオリは店で話す以外にも、メールのやり取りをするようになった。

シオリは休みの日に、出勤している俺にシフトの確認をメールでしてきたり、店長の愚痴を言ったりしてきた。

それに対して俺もメールで返信したが、それほど盛り上がるわけではなかった……。

基本的に俺はシオリからのメールはすぐに返したが、シオリはその日のうちに返事が返ってくればいいほうで返事がない事もざらだった……。

だけど、俺はそんなに気にしているわけでもなかった。

これまでの経験から、女のメールの返信が遅いのは、互いの関係の深さに比例することを知っていたからだ……。

それに俺はこの頃、タイにいる彼女との国際電話に夢中になっていた……。

そう、それがまだ幻だとも知らずに……。


なぁ、シオリ……俺が砂漠の中で陽炎に翻弄されている時も、君は現実の泥沼の中で苦しんでいたのかな……。


俺は今まで、自分の心の闇を燃やして小説を書いてきた……。

今まで味わってきた絶望を、欲望で飲み込もうとあがいてきた……。

だけど、それは君も同じだったのかもしれないね……。

だから、君の歌声はあんなに切ないメロディーを奏でていたし、君が書く文章は心の痛みを伝えてくれたんだね……。

だけど、この時俺はまだ、君の心の痛みに気付いていなかったね……。


君が仕事場で見せていた笑顔は、俺の恋のように幻だったのかな……?

それとも、現実という地獄の海を泳ぐ、唯一の浮輪のようなものだったのかな……。


そんな君の心の痛みの片鱗を少しだけ見る事ができたのが、あの夜だった……そう、あの歓迎会の夜だった……。


【続く】


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