ラブアド〜シオリの物語〜

ある別れ

俺が本当に欲しかった物……それはたった一つの愛だった……。



愛した女に愛されたい……そんな単純な事だった……。

本当に愛された事のない俺は、愛の無いSEXを繰り返していた時期があった。

愛なんて関係ない、ただノリと性欲に任せたうわべだけの関係……。

だが、その果てに待ち受けていたのは、虚しいだけの孤独と絶望だった……。


だからこそ、今の彼女 チュンの愛が素晴らしく感じた。

夜の営み以上に、昼間、寄り添って歩いているだけで幸せだった。

一緒に歩きながら、チュンは俺に果物を食べさせてくれた。

俺はチュンと手を繋いでいるだけで、勃起するほど、チュンを愛していた。

これまでの人生の中で、これほど、愛し、愛されたのは初めてだった。

俺はこの時間が永遠に続けばいいと思っていたし、今、死んでもいいと思った。

だけど、そんな事はただの幻想に過ぎなかったし、それは自分でもよく解っていた……。

俺達の愛が期限付きである事を……。


帰国して間もなくして、それは静かにやってきた……。

チュンとの連絡が徐々に途絶え始めたのだ……。

やがて、チュンに別の男ができた事を知った俺は、タイ行きのチケットを握り潰し、日本語が通じるチュンの友達に別れを告げてもらうように頼んだ……。

それから何度か、チュンから電話があったが、俺は一切電話を取らなかった……。

俺は悲しみにうちひしがれ、心に誓った。

やはり誰も信じられない……。

頼れるのは自分だけ……。

だが、そんな結論を出した自分自身が妙に虚しく感じた……。

無償に誰かに縋り付きたかった。

そう思った瞬間、俺の眼からは涙が溢れ出していた。

皮肉な事に、この時、俺が真っ先にメールを送ったのがシオリだった……。

この時のメールがきっかけとなって、俺とシオリは仲を深めて行く事になる……。

シオリに励まされながら、俺は自分の中の悲しみと怒りと絶望を小説に込めて生きて行く事を決意をした。

だがそれは、チュンとの別れ以上に辛い現実の始まりだった……。

シオリのラブアドが、これまでに無いほどの悲しみを運んで来るなんて、この時の俺は思いもしなかった……。

【続く】


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